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究極のむし歯予防法 〜3DS〜

 「むし歯は感染症です。生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、むし歯菌は棲んでいません。それが、他の人(主にお母様)からむし歯菌をうつされることによって、むし歯菌が棲みついたお口になってしまうのです。現在、むし歯菌が定着する年齢は、およそ2歳頃だといわれています。」
この事実を頭の隅において、以下のお話をお読み下さい。
 
 

 この章も、この大前提からお話を始めたいと思います。もし感染症なら感染源の細菌さえ染らなかったら、またはお口の中に棲んでいなかったら、むし歯にはなりたくてもなれないことになります。この概念から国立感染症研究所の花田信弘先生達の研究グループにより考え出されたのが、この3DSというむし歯予防法です。
 下図は、有名な『カイスの4つの輪』というむし歯の成り立ちの模式図です。むし歯が成立するためには、「歯」・「細菌」・「砂糖」・「時間」の4つの要素が成立する必要があるということを示した図です。カイス氏が考えた元々の図は「時間」の輪がなく、3つの輪で、後年になって「時間」の輪が足されて4つの輪になりました。

 
 不思議なことに自然界では、主にむし歯菌は歯の表面に棲息しています。そのため歯が萌え出していないお子さんのお口の中にむし歯菌が入ってきても、そのままそこで生存し続けるということはあまりありませんが、歯が萌え始める頃から3歳頃までが、むし歯菌感染の最も危険な時期になります。その意味では、歯を全て失った高齢者の方のお口の中にも、むし歯菌は棲息していくことになります。
 
 お口の中に歯が存在し、むし歯菌が感染し、そこに糖質が存在することによりむし歯菌が酸を産生して、その状態が継続することにより歯が脱灰されていくプロセスが、むし歯発生のプロセスです。
カイスの4つの輪
 
 むし歯予防を計画する時には、上記のそれぞれの要素についてアプローチしていけば良いわけなのです。
たとえば、
1、歯を強くするためにフッ素を積極的に利用したり、キシリトールの再石灰化作用を利用する。
2、糖質をコントロールするために、砂糖ではなくキシリトールを利用して、むし歯菌が糖を利用できないようにする。この意味では、キシリトールは、歯にも、糖質にも、むし歯菌にも、むし歯の成り立ちに積極的に作用するわけです。
3、細菌にアプローチするために、歯磨き・プラークコントロールを上達させる。
4、時間のコントロール---------他の3つの要素が持続しないように飲食の回数を管理したり、糖質を採った後はお茶や水を飲むなどの食習慣を工夫する。
 従来は、以上のようなむし歯予防法が行われてきたわけです。
 そして、この章でご紹介する「3DS」は、細菌に最も劇的に作用する新しいむし歯予防法です。「Dental Drug Delivery System」と言い、3つのDが続くのとSystemのSを取って「3DS」と呼ばれています。これを簡潔に表現すると、「その人のお口に合ったマウストレーによる薬剤適用法」と言うことになると思います。
 「3DS」によるむし歯の除菌療法が有名ですので、「3DS」と言った時、むし歯菌の除菌療法を指すのが一般的ですが、言葉から分かるように薬剤の適用システムを表わした文言ですので、この方法で歯周病菌に効果のある薬剤を利用すれば歯周病治療に、フッ素を用いればフッ素塗布法になります。見方によれば「ホームホワイトニング」もこのシステムをもちいて、歯の漂白をしている訳です。もちろん、それぞれの目的に適ったマウストレーの製作法があるわけですが。現在は、このシステムを利用して、どのような薬剤がどのような疾患に適しているのか、また、よりよい薬剤の開発などの研究が進められています。
 
 さて、この章はむし「これからの歯の予防法」がテーマですので、ここではむし歯菌に対する3DS法についてお話します。
 むし歯の除菌療法は下記のようなプログラムで行われることが一般的です。
1、むし歯リスクテスト
 「むし歯リスクテスト」の結果から、3DSの適応症であるのがどうか判定します。
 3DSは効果的なむし歯菌の除菌療法ですが、むし歯リスクテストの検査項目のうちミュータンス菌やラクトバチルス菌が、多く培養された方に対して行う療法です。あまりむし歯菌類が検出されない方に行っても、もともと少ないので行う意味が小さくなります。また、3DS実姉前に必ずむし菌の培養検査を行い、術前の状態を評価しておく必要があります。これは3DS実施後の検査結果と比較することにより、3DSの効果測定が可能になるからです。多くの場合、術前のむし歯菌培養検査と比較して、術後の検査結果のほうがむし歯菌が激減している場合が多いのですが、まれに、あまり効果が現れなかった方に対しては、除菌療法の再試行や家庭での抗菌は磨き粉によるパックを継続して行うなどの追加対策が必要になってきます。
術前のミュータンス菌検査
ミュータンス菌がとても多い。
術前のミュータンス菌検査
ミュータンス菌がとても多い。
 
術前のラクトバチルス菌検査
ラクトバチルス菌がとても多い。
術前のラクトバチルス菌検査
ラクトバチルス菌がとても多い。
 
2、マウストレーの作成
 歯型を取り、模型を作り、その方のお口に合ったマウストレーを製作します。
マウストレーの一例
マウストレーの一例
3、PMTC(歯のクリーニング)
 PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)を行います。徹底した歯のクリーニングと思って下さい。歯の表面にはバイオフィルムし呼ばれる微生物の皮膜が覆っているので、そのままで薬剤を適用したとしても効果が上がりません。そのために徹底したバイオフィルムの除去を行った後に、除菌療法に進みます。見方を変えれば、このPMTC自体にも除菌の効果はあるわけです。
バイオフィルムを除去しやすいように、赤く染め出した後に、除去していきます。
バイオフィルムを除去しやすいように、赤く染め出した後に、除去していきます。
 
PMTCにより、歯の表面のバイオフィルムを除去指定は増す。これを的確に行うことが、3DSを成功へと導きます。
PMTCにより、歯の表面のバイオフィルムを除去指定は増す。これを的確に行うことが、3DSを成功へと導きます。
4、マウストレーへの薬剤の注入
 マウストレー内に、過不足なくむし歯菌に効果がある薬剤を注入します。薬剤が、歯の表面全体にいきわたる量です。
 薬剤の種類には、一般的にクロルヘキシジンを使用することが一般的ですが、ポピドンヨード(イソジン)を用いる場合もあります。今後、この薬剤の研究が進み、新しい薬剤に変わっていくことと思います。
3DSで使用される薬剤の一例。クロルヘキシジン製剤
3DSで使用される薬剤の一例。クロルヘキシジン製剤
 
マウストレーに薬剤を注入している。
マウストレーに薬剤を注入している。
 
マウストレーに満たされた薬剤。
マウストレーに満たされた薬剤。
5、マウストレーの装着
 上下の歯に薬剤を満たしたマウストレーを装着し、適切な時間だけ薬剤によるパックを行います。通常は5分程度ですが、むし歯菌の検査結果などからも、適宜、時間の調整を行います。
再度、口腔内を洗浄した後に、薬剤のパックを行います。
マウストレーをお口の中に装着し、除菌を行っている。
マウストレーをお口の中に装着し、除菌を行っている。
6、家庭での除菌療法
 マウストレーをご家庭に持って帰っていただき、ご家庭でも殺菌剤の配合された歯磨きペーストなどをもちいて、マウストレーを用いた薬剤パックを就寝前の歯磨き後に行っていただきます。
次回来院されるまでの間、毎晩、5〜10分程度、除菌パックを行っていただきます。通常、1週間程度です。
ご家庭でお使いいただく歯磨きペーストの一例。
ご家庭でお使いいただく歯磨きペーストの一例。
 
歯磨きペーストをマウストレーに注入している。
歯磨きペーストをマウストレーに注入している。
7、歯科医院での再度の除菌療法
 再度、PMTC後にマウストレーを用いた除菌療法を行います。
8、再評価
 適切な時期を選んで(通常1〜3ヶ月後)、むし歯菌培養検査を行い、3DSの効果判定をおこないます。
術後のミュータンス菌検査
ミュータンス菌が激減していることが分かる。
術後のミュータンス菌検査
ミュータンス菌が激減していることが分かる。
 
術後のラクトバチラス菌検査
ラクトバチルス菌が、激減していることが分かる。
術後のラクトバチラス菌検査
ラクトバチルス菌が、激減していることが分かる。
   
 この検査結果により、この方のむし歯リスクは劇的に改善したことが理解できます。
9、メインテナンスと定期検診
 3DSを受けられる方は、通常、「むし歯リスクテスト」で「むし歯リスクが高い」と判定された方ですから、定期的な定期検診、メインテナンス、PMTC、むし歯リスクテストが、口腔の健康維持・管理には欠かせない要素になります。
 3DSは、一度行ったらそれで一生その状態が続いてくかと言うと、そういうことはありません。その状態が維持されるかどうかは、日常のケアや生活習慣など、様々な要素により影響を受けるわけです。
 メインテナンス・PMTC・3DSなどの予防管理の考え方に共通して言えることは、いい状態を維持する努力が欠かせないと言うことだと思います。このことはよく庭掃除を例に説明されます。
 たとえば今日、3DSが終了したとしましょう。かつてむし歯菌類がお口の中にはびこっていた状態は、庭掃除の例で言えば、雑草がボウボウに生え茂り手のつけられないような状態だったわけです。それが、雑草を抜き、きちんと庭を掃き清め、清潔な庭になった状態が、3DSの終了時です。
 しかし、そのまま日々のお手入れを怠り、庭掃除をしない状況が続けば、また以前のような雑草がはえ茂る草ボウボウの状態が戻ってきてしまうわけです。しかし、そのことは3DSという除菌療法に意味がないということにはなりません。雑草を抜き、庭を掃き清めた状態にするということは、その後の日常の庭掃除をとても楽でやりやすい状態に替えてくれるわけです。そして、その後きれいな状態を維持できるかは、日々のお手入れがとても重要なことは言うまでもありません。
 それでも長い時間が経つうちには、少しずつ雑草が生えてきてしまうでしょう。その時は、私共、専門職の手を借りて、お口の中をきれいにされる必要があると思います。いわば、庭のお手入れで言えば、私たち歯科医院は、たまに庭のお手入れのお手伝いをする庭師のような存在なのかもしれません。
 以上、ご説明したような方法で3DSという除菌療法は行われます。言い方を替えれば、「3DSは、かつてむし歯菌のいなかった生まれたばかりのピュアなお口の状態に戻す療法」と表現してもいいかもしれません。
 是非、むし歯リスクが高い方には、お勧めしたい療法の一つです。きっと、これまでの「治しても治しても、後から後からむし歯ができてしまう」という負のスパイラルから抜け出せることでしょう。
 
   

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