前章で、むし歯リスクテストの概要をお話しして来ました。当たり前のことですが、むし歯リスクテストはテストそのものが目的では有りませんので、その結果を受けて、そこから導かれる対処法、すなわちむし歯予防プログラムが各患者様にご提案されなければ意味がありません。この章では、むし歯リスクテストの判定結果を受けて、実際にどのように、その人その人に合ったオーダーメードのむし歯予防プログラムをご提案しているのかを、実例を引用してご説明したいと思います。
ビバ・デンタルクリニックでは、むし歯リスクテストの結果を下記のようなレーダーチャート付きの文書にして、患者様に情報提供しています。リスクが低いほど、青いチャートの面積が広くなっていきます。 |
 |
注意の判定が出た方の例 |
| |
|
| |
| 注意の判定結果が出た方の例をお示しします。これは5歳のお子様の結果です。この検査結果をチェックしていきましょう。 |
| |
[唾液の流出量]
3.5ml未満です。年齢を考慮すると、味無しガムを噛んで唾液を出す検査が、あまり上手にできなかったのかもしれません。お口の中を見ますと、結構、唾液は出ているようでしたので、この検査結果についてはあまり重要視しませんでした。 |
| |
[唾液の緩衝能]
試薬検査の結果です。唾液の中和力(抵抗力)はむし歯リスクを考える時、とても重要な要素ですので注目していましたが、結構、中和力があるという結果が出ました。 |
| |
[唾液の緩衝能ph]
唾液の緩衝能はとても重要な要素ですので、歯科用ph計の器械でも再度チェックしてみました。結果は、上記の試薬検査を裏付けるものでしたので、現在のところ唾液の中和力は、かなりあるものと思われます。
しかし、このことは一生を通じて変化しないということではないので、定期的な健診が必要だと思います。 |
| |
[ラクトバチラス菌の数]
むし歯を進行させるこの菌の数は、ほとんど培養では発見できないほど僅かなものでした。かなり良好な結果だといえます。 |
| |
[ミュータンス菌の数]
むし歯菌として、世間で最も知られているこの菌も、このお子様の場合、ほとんど検出できないほど僅かなものでした。とても良好な結果だと思います。
上記2つの代表的なむし歯菌の結果を見ても、おそらくはむし歯菌に感染する機会の少なかったケースなのかもしれません。もし、この状態が維持されれば、このような例こそ、あまりお口のケアに気を配らなくても、むし歯になりにくい人へと成長していくのかもしれません。 |
| |
[食生活や飲食物の嗜好]
間食はあまりしないようですが、甘いものが好きなようでした。甘いもの好んで食べていると、今は、少ないむし歯菌を増やしてしまうリスクにもなりますので、食べる回数などに気をつけていただくようにお話しました。 |
| |
[歯磨きの習慣や上手さ]
今回の検査で、最も私達が危惧している検査結果がこの項目でした。他の項目でいい結果が出ているにもかかわらず、「むし歯リスク度―注意」の判定結果を出したのは、プラークコントロールが悪かったからです。歯垢の付着率が75%と、お口の中の汚れ(バクテリア)が、あまり落ちていませんでした。このような状況がつづいていくと、たとえむし歯リスクが低い人でも、いつかはむし歯を作ってしまいかねないと思います。今回、おお母様とお子様には、徹底して歯磨きの指導を受けてもらいました。
また、今後、幸いにむし歯リスクが低い状態がつづいて、むし歯に悩まされることがなかったとしても、このプラークコントロールの悪い状況がつつけば、いずれ歯周病なので悩まされるようなことになるかも知れません。
そうそう、人生は甘くありません。 |
| |
[フッ素の利用度]
お母様が、ご家庭でのフッ素の利用については、積極的に取り組んでおられ、毎日、当院でお求めになった、フッ素入り歯磨き粉を利用されていました。この点も、むし歯リスクを減少させるように働いているようで、現在、このお子様のお口には、むし歯は1本もありません。 |
非常に危険の結果が出た方の例 |
 |
 |
| |
| 上記は非常に危険という結果が出た方の例を、お示ししています。30歳代の女性の方の例です。この検査結果を見ていきましょう。 |
| |
[唾液の流出量]
唾液の流出量は3.5ml未満と、かなり少なめでした。実際、お口の中も乾燥傾向(ドライマウス)にあります。この状態が続くと唾液の洗浄力・中和力・免疫力などが、あまり期待できないので、大変むし歯ができやすい状態になってしまいます。また、唾液は歯ばかりでなく、お口の頬や唇、舌などの口腔粘膜を守っていますので、口内炎などの口腔粘膜疾患に罹りやすい状況にありますし、お口の中の微生物が繁殖しやすい状況にもなりますので、口臭の一因にもなります。
実際、この方は時々、口内炎が出来ることがあるということを、自覚されていました。 |
| |
[唾液の緩衝能]
危険域 試薬による唾液の緩衝能すなわち、飲食などで酸性に傾いたお口の中を中性に引き戻す中和力も弱く、たいへんむし歯になりやすい状況でした。 |
| |
[唾液の緩衝能ph]
ph4.8と、歯科用ph測定器による緩衝能の測定でも、上記と同様の結果が出ました。最初の唾液の流出量とも総合して、唾液の歯を守る力がとても弱いことが分かります。 |
| |
[ラクトバチラス菌の数]
むし歯を進行させるラクトバチラス菌の量も、侮れない量が検出されました。このまま放置するのは、よくない値だと思います。 |
| |
[ミュータンス菌の数]
最大のむし歯の原因菌である、ミュータンス菌の量が100万CFU/mlと、ほぼ最高値に近い値を示しています。このような状況ですと、むし歯を治療しても、後から後からむし歯がどんどんできてしまうという状況から抜け出せません。何か抜本的な改善策を立てたいものです。 |
| |
[食生活や飲食物の嗜好]
「非常に間食が多く、甘いものが大好き」とのことです。最もむし歯リスクの高い食生活や嗜好を持っておいでです。この点も、大いに改善の余地がありそうです。 |
| |
[歯磨きの習慣や上手さ]
歯垢の付着率は60%と、お口の中の清掃は、あまりうまく行っていません。これまでの検査項目全てで、むし歯リスクの高い結果が出ていますので、それに加えて歯垢がたくさん付着していれば、むし歯にならない方が不思議なくらいです。
この点は、充分に患者様にご理解いただきました。 |
| |
[フッ素の利用度]
フッ素は、あまり利用していない様子でした。これもむし歯リスクを挙げる要因の一つになっていると判断しました。 |
| |
| 以上の結果から分かるように、この方のお口の中は、ほとんどの歯がむし歯にかかっており、むし歯でない歯を捜すのが難しいくらいでした。また、むし歯の多くが、神経や根の治療を必要とする、進行したむし歯でした。 |