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抗生物質と耐性菌

こんにちは。千葉県船橋市東船橋にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。
ドラッグストアなどでの市販薬はもちろん、お医者さんで処方されるお薬すべてに“服用量“の指定がありますよね。例えば、「1日3回朝昼晩の食後に2錠」など必ず明記されています。そして中には、「すべて飲み切ってください」という薬もあれば、「痛い時にのみ飲んでください(頓服)」という薬もあるなどその飲み方は種類によって様々です。
ところでみなさん、普段お薬を飲む際にこの服用量はきちんと守れていますか。こんな風に考えたことありませんか?

『たくさん飲んだ方が効く気がするから多めに飲もう』
『もう痛くないし、残りは飲まなくていいや』

実はこれすごく危険なことなのです。なぜなら誤った服用をすることで症状を悪化させることもあるからです。そこで今日はお薬の飲み方のお話です。

 

抗生物質は必ず飲み切る

抗生物質**のお話です。抗生物質とは細菌などの微生物の成長を阻止する物質のことです。細菌性肺炎や溶連菌感染症、百日咳などの細菌感染症に対して有効な働きをします。こちらのブログ:飲み薬と抗カビ剤の歯磨きで歯周病を撃退!?でご紹介した歯周病の治療薬であるジスロマックも抗生物質です。さてここで処方する立場として、抗生物質について声を大にして言いたいことがあります。それは

『抗生物質は必ず飲み切ってください』

ということです。ビバ歯科・矯正小児歯科では患者様に処方する際に書面及び口頭にてお願いしています。しかしながら、稀に途中で飲むのをやめてしまったり、あるいは飲み忘れてしまったりする方がいらっしゃいます。飲むのをやめてしまった方に理由をお聞きすると、次のような言葉をいただくことがしばしばあります。

『痛みが無くなって治ったから』
『痛くないので、余計な薬は飲みたくないから』

お気持ちはすごくわかります。確かにお薬は飲まないにこしたことはないものです。しかし抗生物質に関しては処方された以上必ず飲み切るのが原則です。なぜなのでしょうか。理由を説明していきます。

**厳密には、細菌の増殖を抑制する働き(除菌作用)、直接細菌を殺す働き(殺菌作用)をもつ薬のことを“抗菌薬“と言い、そのうち、細菌や真菌といった生き物からつくられるものを”抗生物質“と言います。一般的には抗生物質の方が馴染みのある名前ですので、本ブログでは特に区別をせず抗生物質として表記します。

薬剤性耐性菌の出現

症状が良くなった場合でも体の中には悪さの原因となった細菌が残っている可能性があります。そんな中、抗生物質の服用を中断してしまった場合症状がぶり返してしまう恐れがあるのです。というのも、細菌の増殖を抑えるためには血液中の抗生物質が一定濃度よりも高くある必要があります。先の通り「1日3回飲み切ってくださいね」というのはその血液中濃度を一定値以上に保つためのものです。ところが自己判断で抗生物質の服用をやめてしまうと、抗生物質の血中濃度が低いため細菌が生き残ってしまいます。そして、細菌たちはその抗生物質に慣れてしまい耐性をもつ細菌へと変化します。そうです、これが薬剤性耐性菌の出現です。薬剤性耐性菌はその名の通り、抗生物質が効かない菌のことです。通常の治療に用いる抗生物質が効かないということで世界的にも問題になっています。そこでこちらの厚生労働省のHPにあるように、日本では2016年に初めて薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策アクションプランが決定されました。

 

なぜ薬剤性耐性菌ができるのか

細菌自体が変化するから

そもそも抗生物質というのは細菌にとっては猛毒です。そのため、細菌たちはなんとかその毒から逃げようとします。そして生き残ろうとする中で、環境にあわせて細菌自身を変化させるのです。これが薬剤性耐性菌のできるメカニズムです。「郷に入っては郷に従え」ではないですが、細菌たちも順応していきます。例えば、私たちも夏になれば涼しい恰好をしますし、冬になれば厚着をしますよね?それと同じで細菌たちも環境にあわせて変化をしていくのです。昨今新型コロナウイルスの変異株が話題になりましたが、これは遺伝子の複製過程においてミスコピーが生じRNA(リボ核酸)という物質の配列に小さなミスが起こることが原因です。こうして誕生した変異株はワクチン効果の減弱化の要因になりますから、ウイルスにしても細菌にしてもワクチンや抗生物質が効かなくなるというのは困りものです。

細菌のバランスが崩れるから

私たちヒトの体の中には無数の細菌が住み着いていますが、すべての細菌が病気を引き起こすわけではありません。例えばこちらのブログ:ロイテリ菌の底力~歯周病治療に大きな効果でご紹介したロイテリ菌はヒトの母乳・口腔由来の乳酸菌で口内だけでなく全身の菌質を整えるのに効果的です。つまり細菌というのはお互いにバランスを保ち、病気を引き起こさないように一つの群を形成しているのです。これをマイクロバイオームと呼びます。その中で耐性を獲得しようとする細菌は本来の自分の能力を一部変化させることにエネルギーを使うため細々と生きていることが多いです。つまり少数派の細菌です。他の多数派の細菌が活動している場合にはこれら少数派の細菌の活動が目立たないため、私たちの体にすぐに不調が起こるわけではありません。しかし、多数派の細菌が突然いなくなってしまったらどうでしょうか。本来であれば細々と活動していたはずの少数派の細菌たちがどんどん増えてきてしまうのです。では、多数派の細菌たちが突然いなくなる時とはいつか?それがまさしく今回話題にしている「抗生物質の服用」です。多数派の細菌たちには抗生物質が効き徐々に減少してしまいます。すると耐性菌が増殖しやすい環境に転じるのです。

 

薬剤性耐性菌を生まないためにどうするか

抗生物質が本当に必要か吟味して処方する

これは医療従事者側が気を付けることです。先ほどご説明の通り、抗生物質の投与は多数派の細菌を死滅させ細菌たちのバランスを崩します。そして本来少数派であるはずの耐性菌が増殖するきっかけを作ってしまうのです。そのため、患者様の感染症の原因となっている細菌だけに効果のある抗生物質を無駄なく選択するということが大切です。

 

処方された抗生物質は全て飲み切る

これは患者様側が気を付けることです。先ほどのご説明の通り、抗生物質は必要量を必要期間服用することで確実に細菌を死滅させていきます。ところが途中で服用をやめてしまうと抗生物質の血中濃度が低いため細菌が生き残ってしまいます。そして、細菌たちはその抗生物質に慣れてしまい耐性菌へと変化をとげるのです。そのため、処方された抗生物質は必ず飲み切るようにしましょう。

 

手指衛生に努める

こちらは医療従事者、患者様、みんなができる予防策です。耐性菌は人間の手を介して広がることもあります。新型コロナウイルス感染症対策のため、現在では手洗いやアルコール消毒が日常化していることと思いますが、こちらは耐性菌の対策にも大変有効です。ビバ歯科・矯正小児歯科では入口に検温器一体型のアルコール消毒剤を設置しています。診療前はもちろん診療後にもアルコール消毒剤をご利用いただき、手指衛生にご協力いただければ幸いです。