ブログ・むし歯(一般歯科)
歯の神経は抜くべきか、抜かないべきか
こんにちは。千葉県船橋市JR東船橋駅南口にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。
突然ですが、みなさんは“歯の神経”を抜いたことがありますか?
神経を抜いたことがない方でも、漠然と“むし歯が重篤な状態になると神経を抜く”ということはご存知かもしれません。歯の強いお痛みを訴えてビバ歯科にご来院される患者様の中にも『早く神経を取ってほしい!』と駆け込んでくる方もいらっしゃいます。ただ、この“神経を抜く”っていう言葉、なかなかのパワーワードだと思いませんか?というのも、内科でも耳鼻科でも皮膚科でも、何か病院に行って「じゃぁ神経抜きましょうか」となることってまずないですよね?でも、歯医者さんだと毎日のように飛び交うのがこの“神経を抜く”という言葉です。個人的に歯科はすごく独特な世界だなと感じます。
そこで今日は歯の神経をテーマにお話ししていきます。途中実際の歯の神経の写真もありますので苦手な方はご注意しながら読み進めてくださいね。(と言っても、糸のような細い繊維ですのでご安心ください)それではどうぞ最後までお読みいただけるとうれしいです。
目次
そもそも歯の神経って何?
歯の神経とは、歯の組織の一部で正式には、歯髄(しずい)と言います。専門的な用語なので初めて耳にしたという方も多いかもしれませんね。ではこの歯髄は歯のどこに位置しているのでしょうか。
下のイラストをご覧ください。これは歯の模式図です。歯は外側から、硬くて丈夫なエナメル質、少し柔らかい象牙質、そして歯髄という作りをしています。
普段私たちから見えていて歯ブラシをあてている部分が一番外側のエナメル質です。また露出することで知覚過敏を引き起こす原因になるのがその内側の象牙質、そしてそういった痛みを察知するのが歯の神経こと歯髄です。イラストからもわかるように歯髄は歯の根っこ部分にあります。
歯髄の働き
歯髄には神経の他に細かい血管が入り組んでいます。そして俗に「神経を抜く」というのは一般的にこの歯髄を取り除くということで、正式には「抜髄(ばつずい)」と言います。
では歯髄はどんな働きをしているのでしょうか。
歯のSOSをキャッチする
まず神経はみなさんも知っての通り、“歯の痛み”や“歯の異常”を感じるための組織です。歯の神経が正常に機能することで私たちは痛みや不快感をおぼえるのです。つまりむし歯が進行すると強い痛みを感じるのはこの神経のおかげです。ちなみに小さなむし歯いわゆる初期むし歯の際にはほとんど痛みを感じることはありません。このあと詳しくお話しますが、初期むし歯とは歯の表面(エナメル質)のむし歯です。そしてここには歯の神経がありません。そのため痛みを感じることがないのです。
温度差を伝える
歯の神経は「痛い」、「しみる」などの他に「熱い」、「冷たい」などの温度差を察知し脳に伝える働きをしています。私たちは日々の食事の中で飲食物の温かさや冷たさなどを感じとりますが、このように美味しく食事ができるのは歯の神経が温度を伝えてくれるからです。
歯に栄養を運ぶ
歯髄の中の血管を通じて酸素や栄養分などが歯に運ばれます。そしてそのおかげで私たちの歯はその丈夫さやツヤを維持することができるのです。逆に言えば歯が栄養を得られなくなればその歯は死んでしまいます。当然ですよね、栄養がないのですから。
ちなみに神経がない歯は必要な栄養も水分も行き届かないため、変色し枯れ木のように脆くなってしまうのです。
第二象牙質をつくる
第二象牙質とは神経の周りに新たにできる硬い組織です。歯髄はこの第二象牙質を作ります。この単語自体は「初耳だ!」という方が多いかもしれませんね。しかし比較的大きなむし歯の治療をした経験がある方はこの第二象牙質の“働き”を実感されたのではないでしょうか。と言うのも、むし歯治療を終えたはずなのに“しみる”、“痛い”という経験をしたことはありませんか?ビバ歯科でも時にむし歯治療を終えた後にこういった症状が出てご不安を訴える患者様がいらっしゃいます。でも安心してください。実はこれ、第二象牙質が完全にできていないために起こる症状です。第二象牙質という神経を守る壁ができれば痛みは徐々に治まります。
もう少しだけ第二象牙質について補足しますね。ある程度むし歯が進行していると神経の近くまで歯を削ります。そして削った部分には代わりとなる詰め物を装着しますよね。そのため、むし歯の治療直後というのは詰め物と神経の距離が一時的に近くなっています。つまり外部からの刺激に対し神経が過敏になっているのです。特に銀歯などの熱伝導率が良い詰め物は熱が伝わりやすく、“熱い”、“冷たい”などの刺激がより神経に伝わりやすいという特徴があります。しかし時間が経つと神経の周りには第二象牙質という新たな組織ができ始めます。これは詰め物と神経の間にできるため、わずかですが双方の距離が遠ざかります。これにより少しずつ刺激が神経に伝わりにくくなり、“しみる”、“痛い”などの不快感がなくなっていくのです。前置きが長くなりましたが、この第二象牙質を作るのが歯髄の働きです。
ところで歯は年々少しずつ擦り減ります。すると先ほどのむし歯治療と同様に歯の表面と神経の距離が近くなり外部からの刺激を受けやすくなります。そこで歯髄はその刺激から歯を守るために第二象牙質をつくるのですが、その際に歯髄自体は少しずつ小さくなります。すなわち、歯髄が自ら小さくなる代わりに第二象牙質という壁を作るということです。
まれに、『お年寄りは歯の摩耗が進んでいても痛みを感じにくい』という話を聞きますが、それは長年歯が摩耗する中で、第二象牙質が作られその壁により歯の内部が守られているからです。それにしても、“身を挺して神経そして歯を守り抜くという歯髄”、何とも頼もしいですね。
さて、ここでいったん本日のブログのタイトルを思い出しましょう。
『歯の神経は抜くべきか、抜かないべきか』
みなさんももうお分かりかもしれませんね。結論から言えば、歯の神経は抜かないべきです。理由は上に書いたとおり、神経は歯のSOSをキャッチしたり、歯に栄養を届けたりするというとても大切な働きをしているからです。繰り返しますが、抜かないにこしたことはないのです。私たち歯医者さんも「できれば神経を残したい」、「できる限り神経を抜きたくない」と思って日々患者様と向き合っています。しかしながら、どうしても抜かなくてはいけない場合があります。その代表的な例がむし歯による歯髄炎です。このあと詳しく説明していきます。
歯の神経を抜くべきケース
歯の神経を抜く必要がある最も多い例が歯髄炎(しずいえん)です。これはむし歯が進行し、歯髄の中に細菌が侵入したり過度の刺激が伝わったりしたことで歯髄が炎症を起こした状態を指します。軽度な場合には刺激に対して敏感な程度ですが、重症な場合には刺激が無くてもズキズキ痛むようになります。そして更に悪化し重篤な場合には歯髄が壊死、つまり神経が死んでしまいます。これがいわゆる歯髄壊死(しずいえし)です。ちなみに『神経が死ぬと痛みを感じない』と思われている患者様が多いですが実は一概にそうとは言えません。と言うのも、神経が死ぬとガスが発生し歯の中の内圧が高くなります。それにより痛みがひどくなることが多いからです。そしてこの歯髄壊死の状態も放置し続けると今度は歯根と呼ばれる歯の根っこの先に膿が溜まるいわゆる根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)を発症します。するとますます歯の内部が細菌の温床となり最終的には歯を支える歯槽骨と呼ばれる顎骨にまで細菌感染が拡大し、骨が溶け破壊されます。これがいわゆる歯槽膿瘍(しそうのうよう)です。こうなると顎骨が腐り、顎の痛み・腫れ・膿が出るなどの症状が出現します。そして更に進行すると歯根の先に溜まった膿が歯肉にできた穴からお口の中に出てきたり、お顔の皮膚に穴が空いて膿が外に出てきたりすることがあります。
…なんだかブログを書いているだけで怖くなってきました。これだけ読んでもいかにむし歯の早期発見早期治療が大切かわかりますよね。
なお私たち歯科医師はレントゲン写真などでむし歯の状態を確認し歯の神経を抜くか否か慎重に判断していきますが、患者様ご自身でも下記のような症状があれば要注意です。
- 歯に激痛がある
- 嚙んだ時に痛みがある
- 冷たいものや温かいものがしみる
- 根の先から膿が出ている
- 頬やリンパ腺まで腫れている
実際に抜髄した症例
症例1:歯髄炎
患者:70代男性
抜髄部位:右上1番歯(いわゆる前歯)
抜髄理由:重度の歯髄炎のため
症例2:歯髄壊死
患者:30代女性
抜髄部位:左上1番歯(いわゆる前歯)
抜髄理由:当院に通院される以前に治療歴がありそのむし歯が内部で進行し神経が壊死していたため。左右の歯と比較して黒ずんでいるのが確認できる。
さてこの後は神経を抜くことのメリット・デメリットをお話します。
抜髄のメリット
細菌感染した箇所を除去してそれ以上の感染拡大を防ぐ
これが1番の神経を抜くメリットと言えるかもしれません。歯髄炎になった場合でもまだ神経が生きて入ればその免疫機能により細菌の拡大がある程度抑えられます。しかし神経が死んで(歯髄壊死)免疫機能が失われると根管と呼ばれる歯の神経が入っている管内で爆発的に細菌が増殖します。これを放置すると歯の根っこの先に膿を溜まり根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)に進行します。そしてさらにそれが慢性化すると大きな袋状のものができ歯根嚢胞*になります。このように神経が蝕まれる前に抜髄することで細菌の感染を食い止め、歯そのものを残せるようになります。
*歯根嚢胞の詳細は以前のブログ『歯の根っこに風船!?』をご覧下さい。
痛みがなくなる
これは比較的有名かもしれませんね。歯の痛みを訴え「センセイ、早く神経を抜いて下さい!」と言われた経験は数知れず。
軽度の歯髄炎では冷たいものの刺激で鋭い痛みができます。しかし重度の歯髄炎になると温かいものでも痛み、常時痛みが継続します。これを言うとよく驚かれますが、そうなんです。実は「冷たいものよりも温かいものがしみたらかなり悪化している」のです。ということで、神経を抜くことでこれら辛い痛みから解放されるのは患者様にとってメリットと言えます。
抜髄のデメリット
歯が脆くなる
先ほどお話したように歯の神経には酸素や栄養分などを歯に届ける働きがあります。しかし歯の神経をとってしますと栄養の供給が途絶え、歯は枯れ木のようにどんどん脆くなってしまいます。すると弱った歯は硬いものを噛んだり、強く食いしばったりした時に容易に割れたり折れたりしてしまいます。こうなるともう歯を温存することは難しく、抜歯をするしかありません。
歯が変色する
神経を抜いた歯は黒ずんだり茶色っぽく変色したりすることがあります。これは抜髄時に血管を失ったことで歯の代謝能力が失われ微細な汚れが溜まってしまうからです。
歯のSOSに気付きにくくなる
先ほど歯の神経を抜くメリットの1つに痛みがなくなることをあげました。しかし、それは諸刃の剣で、痛みがなくなることがデメリットにもなります。なぜなら痛みを感じないということは「歯にトラブルが起きても気が付けない」からです。そのため歯のSOSに気が付かず、気付いた時にはもう手遅れ、なんてことにもなりかねません。では、どうすればよいか?これを解決するのが歯医者さんでの定期検診です。定期的に該当の歯や歯周組織を診察することで異変の早期発見ができます。
歯肉に痛みや腫れが出ることがある
神経を抜いたことでそこに空間が生じます。そしてそこが細菌に感染すると歯肉が腫れて強い痛みを生じることがあります。その場合には再度歯の根っこの治療をしたり外科的処置をしたりする必要があります。
再治療率が高い
根管(歯の神経がある管)の中は非常に微細な空間です。もし神経を抜く際に根管を傷つけたり、汚れが残ったままになったりするとそこから再び感染が起きる可能性があります。
以上が歯の神経を抜くメリット・デメリットになります。先ほど述べた通り、もちろん私たち歯科医師は「できる限り神経を残したい」と思い治療をしています。しかし、抜髄するメリットがデメリットを上回る場合には、歯の神経を抜くことを患者様にご提案します。
ただここで大切なことは患者様ご自身も抜髄のメリット・デメリットをしっかりご納得した上で治療に進むということです。なぜなら私たちはどんな治療の前にも事前に患者様に①治療の内容②メリット③デメリットをすべてご説明した上で進めますが、最終的には患者様に治療を進めてよいかのお伺いをたてるからです。もし今後あなたが神経を抜くまでの状態になってしまったら、その時はぜひこのブログのお話を思い出して、あなたとあなたの歯にとってベストな選択をしてくださいね。
最後に
「〇〇についてブログに書いてほしい」などのリクエストや「△△って何?」などのご質問も随時受け付けております。以下いずれかよりぜひご連絡いただければ嬉しいです!
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