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歯の根っこに風船!?

こんにちは。千葉県船橋市東船橋にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。

みなさん、“嚢胞“(のうほう)って聞いたことありますか?これは体の中に生じた病的な袋状のもので、液体もしくは半流動体の内容物が入っています。もっとわかりやすく言えば、水を含んだ風船のようなものです。婦人科系の病気のチョコレート嚢胞(子宮内膜症)などが有名ですね。

実は歯科でも嚢胞が関わる病気が複数あり、顎骨・歯槽骨などの骨の中にできるものや、舌・唇などの軟組織にできるものまで様々です。今日はその中でも日常の診療の中でしばしば遭遇する嚢胞について1つだけご紹介したいと思います。その名は『歯根嚢胞』です。

 

歯根嚢胞とは?

歯根嚢胞とは、歯の根っこ(歯根)部分にできる嚢胞のことです。この袋の中には、私たちの歯の健康を脅かす悪い物質がつまっています。その主な物質はコレステリン結晶や不良肉芽です。ではなぜ歯の根元に袋ができるのでしょうか。少し難しい言葉もでてきますが簡単にご説明しますね。

まず私たちの歯が形成されるためにはそれらの種が必要です。この種を歯胚(しはい)と呼びます。そして歯根を形成する中で不要となった歯胚の一部が歯根膜中に残存します。これをマラッセの上皮遺残と言います。マラッセの上皮遺残は休眠状態であれば問題はないものの、細菌の内毒素や抗原性物質に触れた際に休眠状態が解かれ増殖を始めます。これが歯根嚢胞の袋になるのです。もっと簡単に言えば、歯を作るときの残りカスが後に外部からの刺激で暴れ出し、その結果できたのが歯根嚢胞です。

 

なお歯根には、神経が通っている細い穴(根管:こんかん)があります。ところが重度のむし歯等により神経が死んでしまった場合、その穴は空洞化し、そこに細菌が繁殖して毒素を放出しようとします。するとヒトの身体は、毒素が顎骨の中に広がらないよう、歯根の先端に袋を作って毒素をそこに閉じ込めようとします。 その毒素がつまった袋が歯根嚢胞です。

 

主な原因は細菌感染で段階的に悪化していきます。たとえばむし歯菌です。

第1段階

むし歯菌は歯を溶かしながら歯の内部へと進行していきますが、治療をすることなく放置していると歯髄と呼ばれる歯の神経にむし歯菌が到達します。そして歯髄にむし歯菌が感染すると炎症を起こし、いずれ歯髄が死んでしまうのです。更にこの死んだ歯髄は最終的には腐敗してドロドロに溶けていき、むし歯菌の巣窟になります。

 

第2段階

その後、むし歯菌が根尖(こんせん)と呼ばれる歯根の先端部分に到達し歯根の周辺に膿を溜めます。これがいわゆる根尖性歯周炎です。

 

第3段階

さらに根尖性歯周炎が慢性化し、嚢胞ができた状態が歯根嚢胞です。

歯根嚢胞の症状と発見

歯根嚢胞はとりわけ痛みが無く、知らない間に嚢胞が大きくなってしまうということがほとんどです。そのため、「他の治療の際にレントゲン撮影をしたらたまたま嚢胞が見つかった」という患者様が多いです。また稀に “違和感(歯が浮いた感じがする)”を訴える患者様もいらっしゃいます。

以下のパノラマ写真をご覧ください。実際に歯根嚢胞が発見された患者様のお写真です。(パノラマ写真は真正面からの撮影です。よって向かって右側が患者様にとっての左側となります)

 

左下3番、4番の歯根の先端部に黒い影が確認できます。これが嚢胞です。歯根嚢胞は失活歯と呼ばれる“神経が死んだ歯”もしくは“既に神経を取った歯”に起こります。つまり神経が元気な歯には起こりません。こちらの患者様の場合、左下4番に根管治療処置**が認められますから、これが歯根嚢胞の原因と言えます。

 

**歯根の中央部に白く細長い形状のものが確認できます。これはガッタパーチャーという充填材です。歯髄を抜くという根管治療をした際に使われます。

 

歯根嚢胞の治療方法

代表的な治療法は2つです。

根管治療(歯内療法)

嚢胞の原因である細菌感染の根本を取り除きます。根管とは歯の神経があった空洞のことです。根管内の細菌に汚染された部位を除去し、十分に殺菌・洗浄したのち、再度細菌感染を起こさないよう防腐剤を充填して根管を封鎖します。これが根管治療(歯内療法)です。歯根嚢胞がごく小さい場合にはこの根管治療で治ることもあります。

 

歯根端切除術・嚢胞摘出術

嚢胞がとても大きかったり非外科的な根管治療を行っても症状が改善しなかったりする場合には、汚染された部位を外科的に取り除く処置をします。歯根端切除術は歯根の一部切除のみを行い、歯そのものは保存する治療です。なおこちらの治療は全ての歯に適用できるわけではなく、一般的には前歯、小臼歯など歯根が1つの歯に行われます。お口の奥にある大臼歯の場合は、あまり行われません。また合わせて嚢胞摘出術を行います。嚢胞そのものを摘出する全摘出術です。

以下のお写真は先ほどのパノラマ写真の患者様です。原因となった左下4番の歯に歯根端切除術を行いました。術後のお写真を見ると歯根の先端部分を取り除いた様子がよくわかります。

 

なお、すべての治療に対する考えとしてビバ歯科・矯正小児歯科では「歯を保存すること」を第一に考えています。なぜなら、どんなに優れた補綴物でも神経が元気な天然歯には及ばないからです。しかしながら、あまりにむし歯が進行している場合には歯の保存が難しいこともあります。それは歯根嚢胞の治療でも同様です。以下は止む無く抜歯をした患者様の歯の写真です。ぶよぶよしたものが歯にくっついていますが、これが歯根嚢胞の袋です。

 

嚢胞については臨床診断での確定診断が難しいため、病理診断に回し最終的な確定診断となります。

なお、残念ながら歯根嚢胞は飲み薬での完治や自然治癒ということはありません。いずれにしても、定期的な歯科での検診時に偶発的に発見されることが多いのが歯根嚢胞です。久しく歯医者さんに行ってないという方は“予防”のためにもぜひかかりつけの歯医者さんに行かれることをおすすめします。