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舌足らずな話し方、ソレ舌小帯短縮症が原因ではないですか?

こんにちは。千葉県船橋市JR東船橋駅南口にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。歯医者さんと聞くと、歯の専門家というイメージが強いかと思います。しかし実際には生後間もない赤ちゃん(歯が1本も生えていない時期)の患者様も多くいらっしゃいます。そのお問合せの多くが「哺乳が上手にできない」といった内容です。これにはミルクを与える側(母体や哺乳瓶等)の問題と乳児側の原因の両方が考えられます。ただ今回は乳児側の原因、特に“舌”の問題に注目していきます。専門用語では舌小帯短縮症、俗にハート舌とも呼ばれるものです。ぜひ最後までご覧くださいね。
目次
舌小帯短縮とは?
舌小帯(ぜつしょうたい)とは舌の裏側の真ん中と口の底をつなぐヒダのことです。舌を上に持ち上げたときに引っ張られる部分です。この舌小帯が短すぎる状態が舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)です。舌の動きが制限され、可動域が狭くなるため様々な問題が起こります。例えば発音障害や歯並びの乱れなどです。なお簡易的なセルフチェックの方法にはなりますが、舌が短いかどうかは、「あっかんべー」をすると分かります。舌を「ベー」と出した時に、舌先が引っ張られてハート状に見える場合には舌小帯が短いと思われます。
※舌小帯短縮症は舌小帯強直症、舌小帯過張症と呼ぶこともあります。

舌小帯短縮症の症状
舌を上方向に持ち上げるのが難しいため、以下のような症状があります。
浅飲みになる
授乳時に赤ちゃんが乳頭の先端だけをくわえて吸っている状態を浅飲みと言います。本来赤ちゃんがおっぱいを吸う時には下顎を動かし、そして舌を波打つように動かしながらおっぱいを押し出すようにします。しかし舌小帯が短いと舌を滑らかに動かすことができません。なお浅飲みでは乳頭に強い刺激が加わるため、傷ができたり、こすれたりすることで母体側が痛みを感じやすくなります。
体重が増えない
浅飲みが影響し哺乳量が不十分の場合、赤ちゃんの体重が増えにくいことがあります。
滑舌が悪い
舌の動きが限られるため、発音時に舌の動きが大きい「サ行」「タ行」「ナ行」「ラ行」の発音は特に不明瞭になりがちです。
アイスクリームを舐められない
舌小帯が短いと舌の可動域が極端に狭くなります。そのため、舌を前方に突き出したり、舌先を上側に持ち上げたりするような動きをするアイスクリーム舐めができません。お行儀の観点で言えば舐められなくても問題はありませんが、舌小帯短縮症に気が付くきっかけにはなるようです。
食べ物を丸呑みする
食事の際には、食べ物を歯で噛み砕いた後に、それを頬と舌を動かして舌の上に塊として集めます。この塊を食塊(しょっかい)と言い、こうすることで食べ物が飲み込みやすい状態になります。しかし、舌小帯の可動域が狭いと食塊を上手につくることができないため、“食べ物の丸呑み”や“むせ”に繋がります。
歯並びが悪くなる原因にも
みなさんは舌の位置を意識したことはありますか?お口の上の方か、それとも中央に浮いているか、もしくは下に垂れ下がっているか、どこにあるでしょうか。実は舌にはあるべき位置がありその場所をスポットポジションと言います。上顎の前歯の裏側を見ると、写真のように膨らんでいる部分があります。これは切歯乳頭(せっしにゅうとう)です。舌先が切歯乳頭に位置し、舌全体が口蓋(こうがい)すなわち口の天井部分に吸い付いている状態が舌の正しい位置です。


上顎の歯並びが乱れる
理想の歯並びは上下ともにU字型のアーチ状と言われています。そしてそのように歯が並ぶためには土台の広さすなわち顎の大きさが重要です。特に上顎の成長には舌が欠かせません。なぜなら舌が上顎(厳密には口蓋)に押し付けられることにより、上顎が広がるからです。このように舌が上顎に接触しその圧力によって顎の成長を促すことを「舌のアイロン」と言います。つまり顎の正常な発育及び歯並びのためには、舌がスポットポジションにあることがとても大切なのです。しかし舌小帯短縮症の場合、舌が上方に上がらないため上顎の成長不足になりがちです。その結果、顎が小さく歯並びが乱れるのです。なお、歯並びが乱れてガタガタになることを専門用語では叢生(そうせい)と言います。

出っ歯になる
舌がスポットポジションより下方に位置すると上顎の前歯の裏を押す形になります。すると上顎の前歯が前方に傾斜しその結果出っ歯になりやすくなります。なお出っ歯は専門用語で上顎前突(じょうがくぜんとつ)と言います。
受け口になる
舌小帯短縮症の場合には、舌が正常な位置(スポットポジション)よりも低い位置にあります。俗に落ちベロなどと呼ばれますが、専門用語では低位舌(ていいぜつ)と言います。低位舌の場合、舌先が下顎の前歯の裏側に接しており常に前歯を前方向に押している状態です。その結果下顎が前方に出る受け口になります。なお受け口は専門用語で反対咬合(下顎前突)と言います。
大人になって気が付くことも
舌小帯短縮症の症状は幼少期に気が付くことが多いため、子どものうちに切除を済ませることが多いです。しかし大人になるまで放置してしまい、社会に出てから「発音を指摘されて…」といった方も少なくありません。また自覚症状がなくても「歯科の検診時に歯科医師・歯科衛生士に指摘された」ということもあります。例えば次のような場面です。
歯型が取りづらい
義歯(入れ歯)やマウスピースを作る際には、歯型を取ります。例えば下顎の場合には写真のようなU字型のトレーにアルジネートをのせて歯に押し付けて型取りをします。そして、このとき精密に型取りをするには舌を上前方にキープしてもらいます。しかし舌小帯が短いとそれができないため、結果的に歯型取りに苦労することがあります。

下顎の総義歯がフィットしにくい
総義歯(そうぎし)とは歯が1本も残っていない場合に使われる入れ歯のことです。フルデンチャーとも呼ばれます。総義歯は床(しょう)と呼ばれる歯茎を模したピンク色の部分を、患者様の歯茎に密着させることで固定します。下顎の総義歯の場合、本来であれば床の幅は写真のように深くとるのですが、舌小帯が短いと床と接触してしまいます。そのため床の幅を狭くする必要があるのです。しかしこの場合、床の面積が狭まるため、総義歯と歯茎の密着度が下がり安定しにくくなるのです。

舌小帯短縮症の治療
舌小帯切除術と言う外科的処置をおこなうのが一般的です。局所麻酔後に舌小帯を切除します。多少の出血はありますがガーゼで圧迫すれば止血可能です。縫合の必要がなく日帰りでおこなえます。通院についても切除の翌日に消毒でご来院いただく程度ですので患者様のご負担はほとんどありません。そして舌小帯切除術は子どもでも大人でも対象です。

なお舌小帯切除術をした直後から口腔機能の改善、例えば「正確な発音・発声ができるようになるか?」というと必ずしもそうではありません。なぜなら長期に渡り舌の動きが制限されており舌の筋肉が弱いからです。そして舌小帯が短いせいで舌を動かさないことに口が慣れてしまっているからです。その結果口周りの筋肉が鍛えられておらず、術前と同じように口を(舌を)動かしたつもりでも、弱った筋肉では本来必要とされる動きをすることはできません。正しい発音・発声をするには舌を滑らかに動かせるように練習が必要です。そのために術前術後(特に術後)に口腔筋機能療法(以下MFT:Myofunctional Therapy)と呼ばれるお口周りのトレーニングをおこないます。
【MFTの例】
- ポッピング
俗に言う「舌鳴らし」です。舌を上にあげる力を付けるトレーニングで低位舌を改善し、正しい舌の位置を習慣化します。

2.舌の突出
「あっかんべー」をするように、舌を思い切り下に伸ばしましょう。そのまま数秒間キープします。

舌小帯短縮症についてよくある質問
Q.舌小帯の手術の際に痛みはありますか?
局所麻酔をするためありません。
Q.鎮痛剤は処方されますか?
頓服薬として処方します。そのためもし痛みを感じるようでしたら服用可能です。なお合わせて、抗生物質も処方します。こちらは傷口からの感染予防のため処方された分は全て飲み切ってください。
Q.舌小帯の手術後に食事制限はありますか?
ありません。出血が止まれば飲食は可能です。ただし熱いすぎるもの・辛いものなどは傷口の刺激となりますので当日はお控えください。
Q.舌小帯の手術は保険適用ですか?
子どもも大人も保険適用です。
Q.手術をすればすぐに発音が改善されますか?
先のご説明通り、手術だけでは改善しきれないことが多いです。術前術後にMFTのトレーニングをおこなっていただきます。
さて今回は舌小帯短縮症についてお話しました。幼少期に処置することも多い先天異常ですが、大人になってからご相談にいらっしゃる患者様も少なくありません。もし「滑舌が悪いし、もしかしたら・・・」などお悩みでしたらぜひ一度ビバ歯科・矯正小児歯科までご相談くださいね。お待ちしております。