ブログ・むし歯(一般歯科)
大人のむし歯『根面う蝕』
こんにちは。千葉県船橋市東船橋にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。
毎日お子様に「〇〇ちゃん、しっかり歯を磨きなさい」と言っているお父さん、お母さん。ご自身の歯磨きは念入りにできていますか?というのも子育て中はどうしても大切なお子様のことばかり気にかけて自身の体のことって後回しにしがちですよね。ただ実は、“大人になるとなりやすいむし歯”というのがあるのです。それは根面う蝕(こんめんうしょく)と言います。今日はこの根面う蝕のお話です。
目次
むし歯のできる場所
こちらのイラストは歯の断面図です。歯は歯ぐきから出ている上の部分を歯冠部、歯ぐきに埋まっている下の部分を歯根部と呼びます。一般的に“むし歯”と言えば、歯冠部にできるむし歯を思い浮かべる方がほとんどだと思います。しかし、この歯冠部は元気なのに、歯根部がむし歯になることもあるのです。この歯根部にできるむし歯を根面う蝕と言います。
でも、歯ぐきに埋まっているところなのに、どうしてむし歯になるのでしょうか?
でもそれを説明する前に、一般的なむし歯とこの根面う蝕についてもう少しだけ詳しく触れておきますね。
一般的なむし歯@歯冠部
歯ぐきより上の歯冠部にできるむし歯でエナメル質のむし歯です。進行すると象牙質や歯髄までむし歯になります。
食べ物を嚙む面である歯冠部はエナメル質と象牙質の二重構造になっています。エナメル質は無機質が95%、有機質と水分が5%と無機質の割合が非常に多く、とても硬い材質です。
根面う蝕@歯根部
歯ぐきより下の歯根部にできるむし歯で象牙質とセメント質のむし歯です。
歯根の部分は象牙質とセメント質の両方で構成されていますが、ほとんどを象牙質が占めています。
ブログ冒頭のイラストを見ると一目瞭然ですね。象牙質は無機質が69%で、残り31%は有機質と水分ですからエナメル質と比べると柔らかい組織です。
どうして歯の根元にむし歯ができるの?
それではここから根面う蝕の原因を説明していきます。まず冒頭で「歯ぐきに埋まった部分(歯根部)なのにどうしてむし歯になるのでしょうか」と言いましたが、正確には少し違います。加齢や歯周病などにより歯ぐきが下がった時に露出した歯の根元の部分(これを根面といいます)がむし歯になるのです。
象牙質が酸に弱いから
むし歯はお口の中の細菌が出す酸が歯を溶かすことで起こります。歯根部はセメント質が薄い上に、象牙質は酸への抵抗力が低いためむし歯になりやすいのです。
みなさん、PHというのを聞いたことがありますでしょうか。これは酸性、アルカリ性などの性質濃度がどの程度であるかを表す数値です。まず中性がPH7.0でそれよりも数値が大きくなるとアルカリ性、数値が小さくなると酸性を表します。お口の中はふだん中性でPHはおよそ7.0です。飲食をすると先ほどの細菌が出す酸などによりPH数値が小さくなり酸性に傾きます。これがむし歯になりやすい状態です。そして、その後唾液の緩衝作用により少しずつ中性に戻るのです。しかし、PHがある一定数値よりも小さくなるとエナメル質と象牙質が溶け始めます。これがいわゆる脱灰です。
下のグラフをご覧ください。こちらはnico2021年10月号より引用させていただきました。
グラフの横軸が時間の経過、縦軸がPHを表しています。もともと中性(PH7.0)だった口腔内ですが、飲食後には大きく酸性に傾いているのがわかると思います。そしてポイントとなるのが「どのタイミング」で脱灰が起こるかということです。中性よりほんのちょっと酸性に傾いたPH6.8の時点で象牙質が溶け始めます。これは食事をすればすぐに超えてしまう数値ですから、象牙質がとても酸に弱いということがわかります。ちなみにエナメル質が溶け始めるのはPH5.5以下の数値になったときです。グラフの左にある縦の矢印が示すように、エナメル質が溶けるPHの範囲よりも象牙質が溶けるPHの範囲の方がかなり大きくなっています。ここからも象牙質が酸に弱い、すなわちむし歯になりやすいというのがわかりますね。
つまり歯冠部の通常のむし歯(エナメル質)よりも、歯根部の根面う蝕(象牙質)の方がむし歯になりやすいのです。
歯ブラシが届きにくい場所だから
根面は歯ブラシが届きにくく、セルフケアだけではどうしても磨き残しが多い場所です。また自分では「根元も歯ブラシを当ててよく磨いているつもりだ」といっても、案外ブラシの先端が根面に当たっていないということもよくあります。そのため、磨き残しのプラーク(歯垢)が蓄積し、酸の影響を大きく受けむし歯になりやすいということです。
早期発見がしづらく治療が遅れるから
みなさんはむし歯と聞くと何色を思い浮かべますか?おそらく多くの方が「むし歯=黒色」をイメージすることと思います。しかしむし歯の進行具合によってむし歯の色は異なるのです。
実は歯の色というのは、象牙質の色味で左右されると言われています。というのも、象牙質は乳白色、ヒトによっては黄色味を帯びており、エナメル質は色が薄く半透明だからです。エナメル質を通してその内側の色、すなわち象牙質の色をみて、歯の色を判断することになります。
先ほどのむし歯の色についてですが、初期段階では健康な歯より白っぽく白濁しています。それが進行しエナメル質のむし歯になると白からやや黄みがかった状態になります。そしてそれが象牙質まで進んだむし歯になると色は黄色から茶色になります。更に症状が進み歯髄まで進行すると歯の色は茶色から黒色になり患者様ご自身でもわかるくらい“むし歯らしい”色をしてきます。先ほどお話した通り象牙質は乳白色もしくは黄色味を帯びた色ですから、初期のむし歯の色と似ています。そのため、根面にできるむし歯は早期発見が難しく気がつかないうちに進行してしまうのです。
厄介者の『根面う蝕』
象牙質特有の色味のせいで早期発見が難しい根面う蝕すなわち根元のむし歯ですが、他にも厄介なことが多いです。
そしてそれは患者様だけではなく、私たち歯科スタッフをも悩ませているのです。
自覚症状がほとんどない
むし歯といえば「痛い」、「しみる」、「色がおかしい」などといった自覚症状が付きものですよね。しかし根面う蝕の場合自覚症状がほとんどないので、患者様の気が付かないうちにどんどんと症状が進行してしまうのです。そして歯医者さんに長らく行っていない方はもちろん、定期的に歯医者さんに通われている方でさえ、先述の象牙質の色のせいで早期に見つけられなかったということもあります。知らないうちに進行する口腔内の病気と言えばサイレントキラーという異名をもつ歯周病を思い浮かべる人も多いと思いますが、症状は違えど進行の仕方は似ています。そのため根面う蝕はとても厄介な病気です。
治療が難しい
歯冠部いわゆる物を噛むところにできるむし歯は、細菌に侵された部分を除去しキレイにしてから詰め物や被せ物で蓋をしていきます。しかし、根面にできるむし歯の場合これらの治療が難しくなるのです。なぜなら歯の根に広くむし歯がある場合それらを残さず除去しようとすると歯が折れてしまうことがあるからです。またむし歯自体が歯ぐきで見えない部分に広がっていることもあり治療器具が届かないこともあります。これらのことから根面う蝕はむし歯の除去をするのも詰め物をするのも難しくなるのです。
治療後の歯は長持ちしにくい
上記のことから詰め物による治療が難しい場合には、根管治療という歯の根っこの治療をおこないます。これは歯ぐきの中のむし歯や神経をすべて取り除いて被せ物をいれる治療です。こうなると歯の根面部分を削ると同時に歯の噛むところ(歯冠部)も削らなくてはならないことがほとんどです。歯の根元を取り除くのですから当然ですよね。そのため土台をつくりその上に被せ物を入れる形になります。
しかしながら根面う蝕の治療をした後の歯というのは大変もろく長持ちしにくいと言われています。
その理由としては「根面露出により歯ぐきより上に出ている部分が増えてアンバランスになっていること」、「むし歯を除去したために歯質自体が減っていること」、そして「歯の神経が取られているため栄養が行き届かないこと」などがあげられます。これらのことから根面う蝕の治療後は以前の天然歯と比べてとても弱くなっていますので今まで以上のセルフケア、そして歯医者さんでの定期検診が大切です。
根面う蝕の予防と進行抑制をするために
先述の通り根元のむし歯である根面う蝕は治療そして早期発見が難しいです。とは言え、歯医者さんで定期検診を受けていればそれだけ発見できる可能性は高まりますし、予防もできます。
根面う蝕のきっかけは根面が露出することでありその原因は歯ぐきが下がることです。そして歯ぐきが下がる一番の原因は歯周病にあります。この歯周病も自分では気が付かないうちに進行するものですから、やっぱり定期検診が有効です。その他、治療と並行して以下も行っていくと良いでしょう。
- 食生活の改善
- 歯ブラシのやり方を改善
- フッ素塗布
実はフッ素塗布は歯医者さんだけではなくご家庭でも可能です。ドラックストアで購入できるものですとシュミテクトのような1450ppmのフッ素を配合した歯磨き剤に加え、フッ素洗口液を併用するのがおすすめです。特に洗口液であれば、お口の中に含み30秒ほどブクブクうがいをするだけです。ブラッシングと比べて簡単ですし、液体のためお口の中の隅々までいきわたせることができます。こちらもドラックストアで購入可能ですが、歯医者さんで処方されるものの方がフッ素濃度が高いです。ビバ歯科・矯正小児歯科でも販売しておりますのでぜひご相談下さいね。