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嗚呼、かんちがい~歯科医院での麻酔でアナフィラキシーショック?

こんにちは!

千葉県船橋市東船橋駅(JR総武線)南口のロータリーにあるビバ歯科・矯正小児歯科の武林です。

 

日々、お子様から大人の方まで幅広い年齢層の患者様とお話しておりますと、“都市伝説”のような歯のお話を耳にすることがあります。そこで、患者様が勘違いしがちな“お口の中&歯のお話“について『嗚呼、かんちがい』と称し、不定期にブログでご案内しております。なお、過去の投稿については本ページ最後にリンクを貼っておりますのでぜひそちらからご一読下さい。

 

さて今日は記念すべき第6弾、こちらです!(ジャジャジャジャーン♪)

 

👻『歯科医院の麻酔で“動悸”=アナフィラキシーショック!?

 

アナフィラキシーショックとは

ニュースを観ていると、地域格差はあるもののコロナワクチンの接種が若年層、そして子ども達にも広がりつつあるようです。しかし未だかつてないくらい急ピッチで開発が進められたコロナワクチンは副反応、そしてアナフィラキシーショックの心配が少なからずあることと思います。実際私たちビバ歯科スタッフも医療従事者ということで春先に先行接種しておりますが、副反応がどれほどのものになるのか不安はありました。しかし発熱や倦怠感があったものの、ワクチン接種をした全スタッフが大事には至らず今に至ります。

 

ちなみにアナフィラキシーとは致命的な可能性のある全身性アレルギー反応のことです。症状の原因となる物質、いわゆるアレルゲンが体内に入ったことにより様々な症状を引き起こします。原因としては、食べ物(卵、小麦、そばなど)、薬(ワクチン、麻酔薬、抗生物質など)、昆虫(蜂、蚊など)などです。特に食べ物は毎日口にするものですから注意が必要ですよね。なお、アナフィラキシーには以下のような症状があります。

 

  • 皮膚の症状(蕁麻疹、赤み、痒みなど)
  • 呼吸器の症状(咳、くしゃみ、息苦しさなど)
  • 粘膜の症状(目のかゆみ、唇の腫れ、むくみなど)
  • 消化器の症状(腹痛、嘔吐、下痢など)
  • 循環器の症状(血圧低下など)

 

 

そして血圧が下がり、更に意識が朦朧(もうろう)とするなど重篤な場合、これをアナフィラキシーショックと呼んでいます。アナフィラキシーショックが起きた場合には一刻も早く適切な処置・治療をしなければ命にかかわります。

 

簡単にですがこれを聞いただけでもやはりアナフィラキシーというのは怖いですよね。だからこそワクチン後の体調悪化に関する報道をみて一喜一憂するお気持ちもすごくわかります。ブログの主である私自身もそうです。

ただ、怖さを感じるのは仕方ないですが、最近は「物事を少しでも正しく判断するための“基礎知識”が必要だな」と感じています。そこで今回のブログ嗚呼勘違いシリーズを書こう、となったわけです。

 

 

実際にあった患者さんからの相談

さて、話を戻しましょう。今回は実際に当院にご相談をいただいたことを元に書いていきます。

 

先日ビバ歯科・矯正小児歯科に1本の電話がありました。「相談がありまして…」とのことでしたので、いつものように『むし歯の痛み』、『歯科矯正』、そして『歯の冷凍保存』などのことだと思いお話を伺いました。実は当院ではメール相談のほかに、電話でのご相談もお受けしているため定期的に電話相談もいただくのです。しかし、今回は“歯”に関することではなかったのです。

 

ご相談内容の概要は以下です。

 

『歯科医院で麻酔をするときに動悸が速くなります。新型コロナウイルスのワクチンを接種しても大丈夫でしょうか?』

 

どうやら他の歯医者さんで歯科麻酔をした際に動悸を感じたそうで、それをアナフィラキシーショックではないか、とご不安になられたそうです。

 

もちろん、当院ではコロナワクチン及びその副反応に関してお答えはしかねました。医科ではなく歯科の専門家ですし、何よりコロナワクチンの副反応に関しては連日報道でもあるように、副反応とワクチンとの関連性も不明確なところがあるからです。

 

ただ、歯科治療に限って言えば、この「麻酔後の動悸=アナフィラキシー」というのは、実はそうではないことが多いです。本日は患者さんが勘違いしやすい歯科麻酔後の動悸についてお話していきます。

 

 

 “心臓の不快感”、君の名は?

みなさんは、『心悸亢進』(しんきこうしん)という言葉を知っていますか。心悸の「悸」は動悸(どうき)の「悸」ですね。つまり、心悸亢進とは普段は自覚しない心臓の鼓動を胸のあたりに感じる症状のことを指します。人によって感じる不快感は様々ですが『胸がドキドキする』、『心臓が跳ねるかんじ』、『心臓が速く打つかんじ』などがあげられます。

 

心悸亢進や動悸が引き起こされる原因は大きく分けて2つです。

①心臓に原因がある場合

頻脈性不整脈、心房細動、高血圧症心不全、心臓弁膜症等の疾患による症状と考えられます。

②心臓に原因がない場合

貧血、甲状腺機能亢進症、肺疾患、低血糖、発熱、激しい運動に連動して起こった症状と考えられます。

また、過度の緊張や適応障害の状況下などで交感神経が昂り自律神経が乱れ動悸を感じるといった精神的要因も心悸亢進を誘発することがあります。

 

 

先ほどの相談者のお話に戻りますが、症状を伺う限り、歯科の局所麻酔による心悸亢進をアナフィラキシーショックと思われていたようです。病院、とりわけ歯科での治療は「イタイ・コワイ」というイメージが先行する方もいらっしゃいますよね。そのため歯科治療中に極度な緊張を感じたことが交感神経を刺激し動悸を感じたのだと考えられます。つまり先ほどの②心臓に原因がない場合の精神的要因です。そして、もう1つ、歯科の局所麻酔に含まれる成分も影響した可能性が考えられます。

 

 

局所麻酔の中に含まれる〇〇〇〇〇〇?

歯科の局所麻酔液の中にはエピネフリンという血管収縮薬が含まれています。エピネフリンというと聞きなれない方も多いかと思いますが、実はこれ“アドレナリン”の別名です。興奮や緊張を表現するときに

 

『わたし、今めっちゃアドレナリンでてる!』

 

なんて言った経験ありませんか?(ブログの主は学生時代に何か興奮するたびに連呼していました…)

 

あのアドレナリン=エピネフリン*のことです。

 

*以下、アドレナリンに統一して表記します。

 

アドレナリンとはホルモンの一種で、体内の特定の器官や組織に作用する物質です。消化吸収、循環、呼吸、免疫、代謝などといった体の調整作用があり、このおかげで各機能がスムーズに働いているのです。いわば潤滑油的存在ですね!例えば、水分不足の場合には以下のようなホルモンたちが働きはじめます。

・血圧を維持するホルモン

・腎臓に働きかけて尿を濃縮し水分が逃げるのを妨げるホルモン

・脳に働きかけ、喉の渇きを感じさせるホルモン 等

 

そしてホルモン最大の特徴として、ごく微量で大きな働きをする、という点が挙げられます。よって通常ホルモンは必要な時に分泌され、普段はできるだけ一定量に保たれるように調整がなされています。これをホメオスタシス(生体恒常性)と呼びます。よってもしホルモン分泌量が不足している時には補ってやることも必要です。しかし先ほど書いたとおり、ごく微量で激しく作用するのがホルモンの特徴ですので、多くても少なくても害があるのです。つまりホルモンとうのは諸刃の刃ということです。よく「ホルモンバランスの乱れ」と言いますがホルモンの量次第で体調が良くも悪くもなるのです。

 

 

さて、話をアドレナリン(エピネフリン)に戻しますが、アドレナリンはホルモンの一種ですから、もともと体内に存在しています。腎臓の上部にある副腎の中央部、これを副腎髄質と呼びますがそこからアドレナリンは分泌されています。主に心拍数の増加、血管の収縮といった作用があるため「血圧上昇」に効果があります。

 

このアドレナリンを局所麻酔中に添加することで抹消血管を収縮させるため、麻酔薬を注射した部位に薬剤を長く留まらせ麻酔の効果を持続させることができるのです。歯肉の切開やむし歯の治療の途中で麻酔が切れては困りますよね?そうならないようにアドレナリンは縁の下の力持ちなのです。しかし、この薬剤の一部が血液中に溶け込み血管を巡り心臓に到達する場合があります。すると、歯科用の局所麻酔後に心臓がドキドキする、いわゆる動悸を感じるというのも起こりうるのです。なぜなら、先ほどお話したとおりアドレナリンには心拍数増加や血圧を上昇させる働きもあるからです。そのためご相談いただいた患者様の場合にも局所麻酔に含まれていたアドレナリンが作用して動悸を感じ、それをアナフィラキシーショックと勘違いされたのだと思います。この場合の症状はごく一時的なもので時間の経過と共に改善します(*)。幸いなことにこの方の場合も大事には至らず少し休んだら回復されたということでした。しかしながら高血圧や心臓疾患などがある方は基礎疾患のない方に比べてリスクが高くなります。アドレナリンを含まない麻酔薬を使用することもできますので、歯科医院での診察の際には必ず持病や服用薬について歯科医師・歯科衛生士に伝えるようにしましょう。

 

 

*心悸亢進とアナフィラキシーとの大きな違いは、繰り返すか否かです。アナフィラキシーの場合、一度おさまった症状が再びあらわれることもあります。これを二相性反応と呼びます。怖いですね。「おさまったから大丈夫」と安心はせず、すぐに病院で診断を受けることが大切です。昨年のヤフーニュースに二相性反応に関する記事がありましたので、ぜひご覧ください。

 

 

万が一に備えて

歯科治療中での致死的合併症は稀ではありますが、医療機関として危機管理意識は非常に大切だと考えています。そのために心肺蘇生の知識・技能、そして実践は必要不可欠です。そこでビバ歯科・矯正小児歯科ではAEDを診察室に設置しています。そしていざという時に正しく正確に使用できるように今年もAEDの講習会に参加しました。講習会の様子はこちらからご覧になれます。

 

 

🦷歯の豆知識🦷

過去の投稿は以下からご覧ください。

 

第1弾:『歯のお引越し』

第2弾:『歯の土台』

第3弾:『歯を抜くタイミング』

第4弾:『フッ素は猛毒?』

第5弾:『詰め物・被せ物をした歯は、むし歯にならない?』