ブログ・口腔外科
自分の歯を移植する「自家歯牙移植」
こんにちは。千葉県船橋市JR東船橋駅南口にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。
以前こちらのブログ『あなたの歯がタイムカプセルになる時代がきています!』にて、歯の冷凍保存のお話をしました。これは抜いた自分の歯を保存しておき、将来必要になった時に自分自身にその歯を移植するという治療法です。医科では臓器を他人に提供しますが、歯の移植の対象はその歯の持ち主本人のみです。この特徴から歯の移植による治療方法は自家歯牙移植(じかしがいしょく)といいます。今日はこのお話です。
目次
歯の移植のメカニズム
改めて自家歯牙移植の仕組みを簡単にお話します。むし歯や歯周病などが原因で歯がダメになった場合に、他の部位から健康な歯を移植すること、これが自家歯牙移植(以下、移植)です。なお移植される健康な歯のことを「提供歯(ドナー歯)」、移植先にあるダメになった歯のことを「受給歯(レシピエント歯)」と呼びます。一度抜いた歯を本来とは異なる部位で再生させるこの方法。なぜそんなことができるのでしょうか?そのもっとも大切なポイントは提供歯(ドナー歯)の歯根膜です。
歯根膜とは歯と歯槽骨をつなぐ組織です。厚さ0.2mmほどしかない膜状の組織ですが、“歯のじん帯”とも呼ばれており、歯の存続のために欠かせません。そしてこの歯根膜の中には再生能力の高い細胞がたくさん存在します。この細胞は普段は働きませんが、外部から刺激をうけると細胞が活動をはじめます。この外部からの刺激が“移植”です。この再生能力の高い細胞の働きを利用して、歯周組織を回復させます。その結果、提供歯(ドナー歯)が移植先の骨にしっかりとつながるのです。
ここで余談ですが、こんな話を聞いたことはありませんか?
『外傷で歯が抜け落ちたときには牛乳や生理食塩水につけてすぐに歯医者へ行く』
実はこれも歯根膜を守るための応急処置です。乾燥に弱い歯根膜を保護するのです。抜け落ちた歯を元に戻す(歯牙再植)でも大切なのは再生能力を備える歯根膜の存在です。
自家歯牙移植ができる「条件」
移植は全員ができるわけではありません。まず大前提として、「むし歯にしろ、歯周病にしろ、できる限りの治療をしたけれど歯を失ってしまった」という方に限られます。そしてその上で以下の条件を満たすことが必要です。
移植できる歯があること
対象となるのは「健康な歯」かつ「不要な歯」です。
「健康な歯」というのは大きなむし歯や歯周病に罹患していない歯です。自家歯牙移植は外科手術をともないます。もし細菌に汚染された歯を移植して移植先で細菌感染が広がったとしたら移植自体が失敗する可能性が高くなります。また歯周病で歯根膜が少なくなった歯を移植すると、歯根膜のもつ再生能力が発揮できずこちらも移植の成功率を下げる要因になります。
「不要な歯」というのは、その歯がなくても咬み合わせに支障がない歯のことです。万が一咬み合っている歯を提供歯(ドナー歯)として抜歯してしまうとお口のなかのバランスが崩れ歯や歯肉、そして顎にダメージを与えることになりかねません。よって通常は親知らずなどを使うことが多いです。
歯のサイズが適切であること
提供歯(ドナー歯)と受給歯(レシピエント歯)、すなわち移植する側とされる側の歯及び根っこのサイズがあっていることが必要です。ただし多少であれば調整はできます。例えば、移植される歯が大きい場合には歯冠部を少し削って調整できます。ただし根っこの部分は削れません。繰り返しになりますが根っこの部分には歯根膜があり、ダメージを与えると移植自体の成功率を下げてしまうからです。またサイズが少し小さい場合にはしっかりと縫合し、歯根膜の再生能力による骨の回復を待ちます。骨ができれば歯が固定されるからです。
歯の根の形が単純であること
一般的に歯の根は1~4本です。しかしこれは歯の部位や人によって本数が異なります。そして移植に適切なのは提供歯(ドナー)の歯の根っこが単純な形であることです。具体的には、歯の根が1~2本でかつまっすぐに生えていることが望ましいです。なぜなら複雑な形をしていたり、根が曲がっていたりすると、提供歯(ドナー)を抜く際に歯根膜を傷つける可能性が高くなるからです。歯根膜へのダメージは移植の成功率を下げることになります。
持病がないこと
これは絶対条件ではありませんが、外科的治療をともなう移植は、持病がない方の方が成功率が高まります。例えば重度の糖尿病の方は移植自体ができないことがあります。なぜなら糖尿病の方は治癒能力が低下していて、外科処置後に傷口から細菌感染をするリスクが高いからです。細菌に感染すると移植した歯が再生せず使えなくなってしまうこともあります。また、高血圧があり薬を服用している方や、抗がん剤治療中の方も移植ができないことがあります。ただ、持病がある方でも体調が安定していれば移植ができることもあります。その場合はかかりつけ医と相談のうえ、進めていきます。
喫煙していないこと
これも絶対条件ではありませんが、喫煙していない方が断然望ましいです。例えば煙草に含まれるニコチンには血管収縮作用があり血液の流れを阻害します。すると歯肉や骨に酸素や栄養が届きにくくなり細菌への抵抗力が低下します。その結果、歯周組織の回復が遅れたり移植した歯が安定しなかったりなど術後の経過が悪くなる可能性があるのです。
なお喫煙の影響については歯の移植に限らず歯周病リスクを高めることも知られています。詳しくは以前のブログ『知っていますか?喫煙と歯周病の関係』をご覧ください。
自家歯牙移植のメリット・デメリット
歯を失ったときの治療法としては「入れ歯」・「ブリッジ」・「インプラント」の3つが代表的です。そのためここではこれら3つと自家歯牙移植の比較も交えながらお話します。
ぜひそれぞれのメリット・デメリットを知ったうえで自家歯牙移植が“4つ目の選択肢”になることを知っていただければ嬉しいです。
メリット
・歯根膜があるので食感を感じられる
歯根膜は歯にかかる刺激を伝えるので食事の際の噛みごたえや歯ざわりなどを感じられます。そして歯根膜はクッションの役割もするので、歯を噛んだ際の力を吸収・分散し、歯や骨の負担を軽減できます。しかし、インプラントや入れ歯などは歯根膜がないためこれらの感覚は伝わりにくいです。
・周囲の歯へ負担がない
入れ歯とブリッジは隣接した歯を支えにして、失った部分の歯を補います。そのため隣接した健康な歯に負荷がかかり健康な歯の寿命を縮めてしまうことになります。しかし自家歯牙移植は移植した歯を骨に癒着させ、他の歯と同様に機能させます。そのため他の歯への影響がなく結果として、お口全体の歯の寿命を縮めずに済むのです。なお顎骨に土台を埋入するインプラントも同様です。他の歯への負担はありません。
・移植した歯も矯正治療で動かせる
自家歯牙移植をした歯は矯正治療の際に動かすことができます。
デメリット
・治療の難易度が高い
症例により高度な技術と経験が必要です。
・成功率が低い
歯のサイズや歯根膜の有無など様々な条件があるため、インプラントと比較すると成功率は低いとされています。
・むし歯リスクが残る
自家歯牙移植は天然の歯を移植します。そのため通常の歯と同様にむし歯リスクが残ります。なお入れ歯やインプラントなどの人工物はむし歯になることはありません。
・体への負担がある
外科手術をともなうため少なからず体への負担があります。また歯を失ってから時間が経過していた場合、移植する部位では歯周組織が回復しています。そのため、移植するための穴をあけるのに骨を削る必要がでてきます。この骨の削合量をインプラントと比較した場合、移植の方がインプラントよりも多くなります。なぜならインプラントのサイズよりも天然歯の歯根部分のほうが太いからです。(ただし移植される部分の抜歯と移植を同時におこなった場合には骨の削合量を抑えられることがあります)
・治療するうえで条件がある
先述のとおり一定の条件をクリアしないと治療ができません。
自家歯牙移植のQ&A
最後に自家歯牙移植をする際によくある質問についてご紹介します。
- 他人の歯を移植することはできますか?
できません。現時点での提供歯(ドナー歯)は自分自身のみです。
- 昔抜いた親知らずも移植できますか?
できません。移植には健康な歯根膜が必要です。
抜歯して時間が経過した歯は歯根膜が死んでおりその再生能力が発揮できません。
※ただし冷凍保存をした歯であれば移植できます。歯の冷凍保存については『あなたの歯がタイムカプセルになる時代がきています!』をご覧ください。
- 提供歯(ドナー歯)は移植したあとにむし歯になりますか?
はい、むし歯になります。通常の天然歯と同様にケアが必要です。
- 提供歯(ドナー歯)はむし歯の痛みを感じますか?
いいえ、歯自体は痛みを感じません。なぜなら神経が死んでいるからです。ただし、むし歯が重篤化し、根尖性歯周炎(歯根の尖端に感染や炎症が波及すること)になると歯周組織は痛みを感じます。
- どの部位の歯でも移植できるのですか?
いいえ。歯の形状によってその機能が変わるため、ある程度部位は限られます。例えば親知らずの移植であれば臼歯部分が対象になります。
- 移植手術は日帰りでできますか?
はい、できます。当日に移植する歯の抜歯・移植を同時におこないます。
- 移植後、通常通り噛めるようになるまでどのくらいの期間がかかりますか?
患者様により異なりますがおよそ2~3ヶ月程が目安です。
- ビバ歯科で自家歯牙移植をできますか?
はい。条件を満たしていれば当院での移植が可能です。
- 移植した歯の寿命はどれくらいですか?
提供歯(ドナー歯)の状態やお口の衛生状態にもよるので一概には言えませんが、5~10年が目安と言われています。なお当院の患者様の中には、移植した歯が20年以上安定している方もいらっしゃいます。
- 保険はつかえますか?
条件によります。健康保険が適用となる条件は提供歯(ドナー歯)が「親知らず」もしくは「埋伏歯」の場合です。さらに移植する場所にまだ歯が残っていることが条件です。すなわち、すでに抜歯されてしまってもともと歯がない場合には保険適用外となります。
いかがでしたか?
歯を失ったときの治療法としては「入れ歯」・「ブリッジ」・「インプラント」の3つが代表的ですが、今回ご紹介した自家歯牙移植も “4つ目の選択肢”になれば幸いです。
最後に
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