ブログ・歯周病
歯茎が痩せる歯肉退縮とは?
こんにちは。千葉県船橋市JR東船橋駅南口にあるビバ歯科・矯正小児歯科です。
季節は初夏を迎え、ビバ歯科の職員たちも半袖で通勤する者が増えてきました。それと共に話題になるのが「夏に向けて痩せなきゃ!」、「脚痩せしたい!」などと言うダイエットの話題です。ところで『痩せる』と言えば、歯茎に対しても使われますよね?全身のダイエットで適正体重まで痩せるのであればポジティブな言葉ですが、歯茎に対して痩せると言うと実はとてもネガティブな意味になります。そこで今日は歯茎が痩せるということの意味についてお話したいと思います。ぜひご自身の歯茎と睨めっこしながらお読みください。
歯茎が痩せるとは?

「歯茎が痩せる」と言う言葉、聞いたことありますか?これは何らかの原因により歯茎が下がってしまった状態を指します。専門的には歯肉退縮(しにくたいしゅく)と呼び、これが起こると歯の根元である歯根(しこん)が露出します。そのため、上のイラストのように「歯が長くなったように見える」という特長があります。なお歯茎が痩せることは審美的な問題だけではなく、次のような症状が起こるためその原因を突き止め早急に対策することが大切です。
歯肉退縮で起こる症状
◎むし歯リスクが上がる


歯の構造は表面からエナメル質、象牙質そして、その内側に歯髄(しずい)と呼ばれる神経を含む組織があります。また歯のうち歯茎から露出している部分を歯冠(しかん)、それより下で歯茎に埋まっている部分を歯根と言います。このうち歯冠はエナメル質に覆われています。エナメル質は人体で最も硬い組織であり歯を守っています。しかし歯根はエナメル質がなく表層は象牙質です。象牙質はエナメル質に比べて柔らかく、酸*にはとても弱いです。そのためむし歯になりやすく罹患するとむし歯の進行が速いのが特徴です。これは根面う蝕(うしょく)とも呼ばれ、治療の難しさから私たち歯科医師を悩ませる疾患の1つです。
*酸…口腔内細菌の出す酸は歯を溶かします。つまりむし歯の原因です。
◎知覚過敏

本来は歯茎で覆われている歯根部分ですが、歯肉退縮が起こると歯根が露出します。そして歯根の大部分を占める象牙質には象牙細管(ぞうげさいかん)と呼ばれる無数の小さな穴が空いており、これは象牙質に放射線状に張り巡らされています。このため、外部から象牙質に受けた刺激(温度差やブラッシング圧等)は象牙細管を通って、歯髄いわゆる歯の神経に届きます。これが「しみる」「痛い」などの症状すなわち知覚過敏です。
◎汚れが溜まりやすくなる

歯肉が下がると歯間に隙間ができるため、食べかすが詰まりやすくなります。歯ブラシの毛先が届きにくい部分でもあるため、デンタルフロスや歯間ブラシでのケアが必須です。
歯肉退縮は戻せるのか?

歯茎が下がってしまった場合、元の状態に戻せるのかどうか気になりますよね。ただ、「歯茎が痩せる」という言葉は聞いたことがあっても、「歯茎が太る」という言葉は聞いたことはないですよね?例えば全身で考えた時に体重の増減により太る・痩せるという表現を使います。しかし、オーバーカロリーにより全身が太ったからと言って歯茎まで太るということはありません。なぜなら歯茎には脂肪組織がないからです。なお歯茎の主成分はコラーゲンです。コラーゲンと言えばお肌の弾力やハリを維持するために欠かせない成分ですね。
さて話を戻します。歯茎が下がった場合、それを元に戻せるのかどうか?
結論だけ言ってしまうと、完全に元の状態に戻すことは難しいことが多いです。少なくとも下がった歯茎が自然に再生することはありません。ただし、歯肉退縮の原因や程度によってはご自身のセルフケアと歯科医院での特別な治療で改善がみられる場合もあります。
歯肉退縮の原因&治療法
では何故歯茎は痩せてしまうのでしょうか?歯肉退縮の原因について見ていきましょう。その原因は大きく2つに分けられます。
炎症性歯肉退縮

歯肉退縮の原因の1つが歯周病です。初期の歯周病は歯肉炎と呼ばれ歯茎に炎症が起きたり仮性ポケット(歯と歯茎の隙間)が深くなってきたりします。そして更に進行すると歯周炎と呼ばれ、歯を支える歯槽骨が溶かされ破壊されていきます。
ちなみに歯周病が原因の歯肉退縮の場合、歯と歯の間の歯茎が下がるのが特徴 です。これは歯周病菌により歯と歯の間の歯槽骨が溶けやすく、そこの部分の歯茎が下に落ち込むためです。このように歯周病が原因による歯茎下がりのことを炎症性歯肉退縮と言います。なお、炎症性歯肉退縮の場合には土台である歯槽骨が失われているため、このままでは歯茎を元に戻すことはできません。そのためGBR法(Guided Bone Regeneration)と呼ばれる骨再生誘導法を行います。これは新たに骨をつくりたい部位に、骨をつくる手助けする材料を入れて、再度骨ができるのを誘導する治療法です。なお骨をつくる材料には、骨補填材や自家骨(患者様ご自身の骨)などがあります。GBR法は歯周病で歯槽骨が溶けてしまった時の他、インプラント治療で骨の厚みが不足している場合にも行われる処置です。なおこの手術の前段階としてやるべきこともあります。それは「歯周病の治療」と「正しいセルフケアを身に付けること」です。いくら歯槽骨や歯茎を再生しようとしても、根本の原因すなわち歯周病があるままでは意味がないのです。また歯周病を治すには毎日のセルフケアも必須です。

*イラストは株式会社メディカルネットより
非炎症性歯肉退縮

歯肉退縮のもう1つの原因は外圧です。具体的には、過剰な歯磨き、食いしばり、歯ぎしり、咬み合わせの悪さなどです。歯を磨く際に力を入れ過ぎることはオーバーブラッシングと呼ばれ歯茎を傷つけ歯肉退縮の原因になります。そして食いしばり、歯ぎしり、悪い咬み合わせは継続的に強い力がかかるため歯茎に負担がかかり歯肉退縮を引き起こします。ちなみにこのような外圧による歯肉退縮は非炎症性歯肉退縮と言います。(細菌感染により炎症が起こるわけではないので、非感染性歯肉退縮と呼ばれることもあります)なお外圧が原因の歯肉退縮の場合、歯頚部(しけいぶ)と呼ばれる歯と歯茎の境目部分の歯茎が下がるのが特徴です。なぜならこれらの部位は歯ブラシをあてやすいため、歯磨きの際につい力が入りすぎてしまうからです。なお、外圧が原因の場合には結合組織移植術という治療により歯茎を再生させることができます。主に上顎から健康な組織を採取し、歯肉退縮が起こった部位に移植させる治療です。患者様ご自身の組織を移植するため拒絶反応などの心配はありません。露出した歯根部を覆うことができ歯茎のラインも整うために、知覚過敏の軽減や見た目の改善に繋がります。なおこの場合にも、根本の原因である外圧への対策をすることが必須です。正しい歯磨きの仕方を身に付けたり、就寝時にマウスピースを装着したりするなど予防をしましょう。
今回は歯肉退縮についてお話ししました。なお本ブログにおいては説明を簡略化するためにその原因を炎症性か非炎症性かということで2つに分けましたが、実際には様々な要因が複合的に絡み合っています。例えば加齢、遺伝、喫煙習慣、そして矯正治療による歯の移動なども歯肉退縮の原因になりうるということです。詳しくは過去のブログ「歯が長くなった!?それ「歯肉退縮」が原因です」でお話していますのでぜひ合わせてご覧ください。お口の中と言えば、「歯」に注目しがちですが、縁の下の力持ちならぬ歯の周囲の力持ちである歯茎。ぜひ大切にしてくださいね。