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【細菌感染】神経を抜いた歯は要注意!歯根嚢胞の黒い影

レントゲンに写る歯根嚢胞。顎骨を溶かし最悪抜歯になることも

▲袋状の黒い影が歯根嚢胞

歯根嚢胞(しこんのうほう)という顎骨の中にできる病気を知っていますか?嚢胞は袋状の病変のことで中には液状の内容物が入っています。口腔領域では顎骨の中以外に、唇・舌・頬などの粘膜にも生じますが、中でも歯根(しこん:歯の根っこ)の先にできた嚢胞のことを歯根嚢胞と呼びます。歯根嚢胞の発生頻度は高く顎骨内に生じる嚢胞の50%以上が歯根嚢胞と言われています。なお、症状は進行度や患者様により様々ですが、痛みがなく全くの無症状の人もいらっしゃいます。そのため「他の治療の際にレントゲンを撮影したら、たまたま歯根嚢胞が見つかった」なんてことも少なくありません。しかし歯根嚢胞は時間をかけて徐々に大きくなっていくため、隣の歯まで影響が及ぶこともあります。さらに歯根嚢胞は歯根そのものや周囲の骨を溶かすこともあるため、そうなると歯がユラユラと動揺し抜歯になることもあります。そのため「過去に歯科医院で歯根嚢胞の存在を指摘されたけれどずっと放置している」という方は注意が必要です。今日は歯根嚢胞の原因・症状・治療法について詳しくお話させていただきますのでぜひ参考にしてください。

なお口腔内にできるその他の嚢胞については以下をご参照ください。

歯根嚢胞の原因

歯根嚢胞の原因の多くが細菌感染によるものです。歯の根っこには根管と呼ばれる細い管があり、ここには歯髄(しずい=歯の神経組織)が入っています。この根管内に細菌が侵入し、それが根尖(こんせん=根っこの先)まで感染すると、根っこの外側の歯周組織にまで炎症が広がり根尖性歯周炎を発症します。そしてこれが長期慢性化すると歯根嚢胞ができます。なお細菌感染が起こる主なきっかけは次の3つです。

重篤なむし歯

むし歯は細菌による感染症です。ミュータンス菌などのむし歯菌は歯を溶かしながら、歯の内部へと侵入します。歯はエナメル質→象牙質→歯髄の3層構造ですが、治療をすることなく放置していると、最終的にはむし歯菌が歯髄に到達します。歯髄は歯の神経ですからここまで進行すると激しい痛みを伴う重度のむし歯です。そしてやがて歯髄は死んでしまいます。さらに死んだ歯髄は腐敗しドロドロに溶けるため根管内部には空洞ができます。そこがむし歯菌の巣窟と化すのです。その後は先ほど説明した根尖性歯周炎→歯根嚢胞の流れです。

不完全な根管治療

健康な歯に歯根嚢胞はできません。すなわち歯根嚢胞ができるのは失活歯(しっかつし)と根管治療歴のある歯です。失活歯は歯髄が死んでいる歯の総称です。神経を取った歯のことも含めます。そして根管治療とは、歯の神経の治療のことです。神経にまで到達するような重度のむし歯の場合、神経を取ったあと根管内の細菌を除去し洗浄・消毒を行います。そして最後に神経を抜いて空洞となった部分に薬を詰めて仕上げていきます。

根管治療は歯を温存するためには最後の砦と言ってよいほど重要な治療でありますが、実は最も難しい治療の1つです。なぜなら歯の根っこというのは形が複雑で中には湾曲している場合もあるからです。また根管は直径が1㎜未満と細く、この中の細菌を残すことなく除去できるかどうかが根管治療の別れめです。万が一細菌が残ったまま薬を詰めてしまうと、細菌が再度活動を始め、歯の根っこの尖端へと侵入してしまいます。なお、根管治療の最後に詰める薬は根管充填剤と言い、その名の通り根管内部に隙間なく詰める薬です。この処置が不十分だと、新たに根管内部に細菌が浸入し再感染を引き起こします。また根管に隙間があると侵入した(あるいは除去しきれずに残った)細菌が増殖してしまいます。その結果、根尖性歯周炎が慢性化し歯根嚢胞ができてしまうのです。

歯の外傷

外傷(がいしょう)とは、怪我のことです。歯に関して言えば、顔面や歯を強打することにより歯が「抜けた」・「欠けた」・「ずれた」・「割れた」などが考えられます。ひどい出血があったり歯が抜け落ちたりすれば慌てて歯科医院に行かれる方が多いと思います。しかし、中には「痛みが収まったから大丈夫」と受診を先延ばしにしてしまう方もいらっしゃいます。しかしこれが落とし穴です。一見何ともないように思えても、怪我の衝撃により歯の神経が損傷したり死んだりしていることもあるからです。(実際には歯茎の腫れ・歯の変色が見られることもあります)すると歯の内部組織が壊死し細菌感染が広がり、歯根嚢胞へと続発します。

また、歯のヒビ割れや歯根破折(根っこが割れること)もそこから細菌が浸入すれば歯根嚢胞の引き金になります。特に就寝時の歯ぎしり・食いしばりが強い人や中心結節があるお子様はご注意ください。

歯根嚢胞の症状

細菌感染が原因の歯根嚢胞ですが、通常であれば人の身体の免疫力が作用して細菌の増殖を抑えています。そのため痛みや腫れなどの自覚症状がないことが多いです。しかし、疲労や睡眠不足、病気などにより免疫力が下がった時に、細菌の増殖を抑えることができなくなります。すると歯根嚢胞内で細菌の活動が活発になり、歯肉の腫れや噛んだ時の痛みなどの症状が出てきます。以下のような症状があらわれた場合は速やかに歯科を受診しましょう。

歯茎の腫れ

身体の免疫力が低下すると、歯茎に炎症が広がり腫れを生じることがあります。また腫れた部位は赤く指で押すと痛みを伴うこともあります。

噛む時の痛み

歯根嚢胞が大きくなるにつれて内部からの圧力が高まります。すると歯根周囲の組織は圧迫されるため痛みを感じるようになります。噛むときの痛みは細菌の感染が深刻化しているサインです。

歯が浮くような違和感

歯根嚢胞が大きくなると歯槽骨(しそうこつ:歯を支える顎骨)が溶かされます。すると歯が浮くような感覚やグラグラする感覚を覚えます。

副鼻腔炎(俗に言う蓄膿症)

鼻の周りには副鼻腔と呼ばれるたくさんの空洞があります。そしてその中で鼻の両脇にある空洞を上顎洞と言い、上顎の奥歯にできた歯根嚢胞は、この上顎洞までの距離が近くなります。すると歯根の尖端から細菌が上顎洞内に侵入し、副鼻腔炎を発症することがあります。なお特に「歯」の疾患が原因で上顎洞に炎症が起きた状態を歯性上顎洞炎と呼び、これは膿の悪臭、鼻づまり、顔面痛、そして頭痛などの症状を引き起こします。

自覚症状がないこともあり発見が遅れる歯根嚢胞ですが、上記のような症状が出てもなお治療せずに放置すると、神経麻痺、顎骨の骨折、そして骨髄炎*など重症化することもあります。よって違和感があれば必ず歯科医師に相談しましょう。

*骨髄炎:骨の感染症です。骨髄は骨の中にある柔らかい組織で、そこが細菌に感染し炎症が起きます。免疫力だけでは治せないため、歯科医師による加療は必要です。

歯根嚢胞の治療法

歯根嚢胞と診断された時の治療法は以下3つです。

  • 根管治療(歯科的アプローチ)
  • 嚢胞摘出手術(外科的アプローチ)
  • 抜歯(最終手段)

それぞれについて詳しくお話します。

治療法①根管治療

根管治療とは、歯の神経の治療のことです。根管(こんかん:歯根内部の空洞)内にある神経を除去し、根管内を洗浄・消毒、できる限り無菌状態に近づけます。そして最後に隙間なく薬を充填し根管を封鎖します。これにより歯根嚢胞の原因になっている細菌群を絶つのです。歯根嚢胞のサイズが小さい場合にはこの根管治療で治ることもあります

治療法②嚢胞摘出手術

根管治療をおこなっても症状が改善しない場合や歯根嚢胞が大きい場合、また過去に根管治療歴がありその時のコア(*)の除去が難しい場合には、嚢胞を摘出する手術をします。これが「嚢胞摘出術」です。局所麻酔をして歯茎を切開し顎の骨を削り、嚢胞を摘出します。
しかしこれだけでは再発の恐れがあります。なぜなら歯根嚢胞があった部位には、細菌感染の原因となった歯の歯根が残っているからです。すなわち再び歯根の尖端から歯周組織に感染が広がり新たに歯根嚢胞ができるリスクがあります。そのため、嚢胞摘出の際には「歯根端切除術」も合わせておこなうことが多いです。これは文字通り、歯根の端を切除する治療です。歯根嚢胞の原因は歯根の尖端が細菌に侵されていることですから、その根本を絶つのです。具体的には歯根の一部のみ切除をし、歯そのものは保存する治療です。しかし歯根端切除術はすべての歯に適用できるわけではなく、一般的には前歯や小臼歯など歯根が1つの歯におこなわれることが多いです。お口の奥にある大臼歯の場合にはあまりおこなわれません。なおこれらは歯茎の切開や骨を削ることなど外科的処置のため患者様のご負担は大きくなります。また術後、削った骨が再生するのに年単位でかかることもあります。

*コア:削った歯の補強のため、歯の内部に装着する土台

治療法③抜歯

歯根嚢胞の原因となった歯の状態が悪い場合(例:歯の根っこまで割れている)は、歯の保存が難しいため、抜歯をして嚢胞を摘出します。なお嚢胞はその場での確定診断が難しいため、病理診断にまわし最終的な確定診断となります。

以下のブログも参考にしてください。

症例のご紹介

今日は歯根嚢胞についてお話しました。冒頭でもお伝えした通り、歯根嚢胞は自覚症状がないまま進行し、レントゲンでたまたま発見されることが多い疾患です。しかしその原因は細菌感染で、「歯根嚢胞がある=歯に悪い部位がある」ということです。そしてこちらも繰り返しになりますが歯根嚢胞は失活歯や根管治療歴のある歯にしか生じません。つまり、歯根嚢胞は歯の神経が元気な歯には絶対にできません

では歯の神経を守るにはどうしたら良いか?まずは毎日のセルフケア(オーラルフロス・歯ブラシ等)です。そして歯をぶつけるなど怪我をした際には痛みがひいても念のため歯科医院で診察を受けると良いでしょう。そして歯科医院での定期的な検診もお忘れなく!

最後に

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